皆既日食パーティーのフロアで踊りながら想ったこと。【Global Eclipse Gathering 2017】
2017年8月21日、アメリカ・オレゴン州で観測された皆既日食。
太陽と月が完全に重なる世紀の天体ショーは、圧倒的な非日常を作り出し、そこに集まった人々に強烈な感動を与えた。
月が覆う朝、太陽が照らす夜。
時間にしておよそ数分の出来事だった。
宇宙空間の一直線上に並んだそれぞれの惑星は、淡々とその物理的な役割を果たし、その後ゆっくりと、また日常を世界に呼び戻す。
人生初の皆既日食を体験した後、言語化不可能な脳内状態のまま、僕はフロアにいた。
ズーン…ズーン…ズーン…ズーン…
トランスの爆音がアメリカの大地を揺らす。
トランスは良い。
野太いビートに包まれるとき、僕の身体は自由に踊り出す。
ズーン…ズーン…ズーン…ズーン…
もう何時間も踊っている。
背中に強い日差しを感じると、足元にくっきりと黒い影が落ちた。
フロアにはたくさんの人。
いくつもの踊る影。
コメカミをつたう汗に乾いた風が触れる。
ドッ ドッ ドッ ドッ
止まない重低音。
踊りながら心臓のあたりに手をやる。
ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ
あーーーーー、、、
生きてる。
音楽を楽しむコツは、あまり考えないこと。
それでもトランスの重たいキックは、眠たい僕の身体をなおも揺さぶり続け、脳内に次から次へと様々な想いを呼び起こす。
僕の精神世界は、上下左右、前後、それから過去と未来へ、無限に広がっていく。
もっともっと
もっともっと
皆、美しい景色を求めている。
皆、美しい体験を期待している。
人間の知的好奇心は、休むことを知らない。
もっともっと
もっともっと
踊りながら想った。
世界で一番美しいものはなんだ。
フロアにはたくさんの人。
いくつもの踊る影。
リズミカルに揺れる地面。
ズーンズーンズーンズーン
ドッ ドッ ドッ ドッ
ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ
ズーンズーンズーンズーン
愛。
世界で一番美しいものは、愛。
なーんて。
爆音は、もはや静寂へと変わっていた。
圧倒的な静けさの中で、それでも人は踊る。
いくつもの踊る影。
いくつもの美しい魂。
僕は踊るのをやめた。
そして天を仰ぎ、笑いながら泣いてみた。
頰をつたう涙に砂埃が吹き付け、そのうえを汗が流れ落ちる
愛。
世界で一番美しいものは、愛。
それでよかった。
気がつくと僕はまだ爆音のなかにいた。
踊る人たちの、鍛え上げあれたふくらはぎを、土煙の向こうにぼんやりと見ていた。
いくつもの踊る影。
いくつもの美しい魂。
目をつむると、今も大地にこだまする音楽が聞こえてくる。